「インフルエンサーには#PRを付けてもらっている。だから、うちは大丈夫」。そう考えている広告主の方は、少なくないのではないでしょうか。
2023年10月1日、景品表示法でステルスマーケティング(以下、ステマ)が禁止されてから、2026年10月で丸3年を迎えました。この間に出された措置命令を振り返ると、行政が問題にしているのは投稿の#PR表記だけではありません。依頼した投稿を自社サイトに転載する、口コミ投稿に特典を付けるといった運用の抜け漏れが、繰り返し処分の対象になっています。
この記事では、インフルエンサー施策や口コミ施策を担当するマーケティング・SNS担当の方に向けて、3年間の主な措置命令事例とその傾向を整理し、今すぐ見直すべきポイントをチェックリスト形式でお伝えします。
ステマ規制3年で、何が変わったのか?
結論から言えば、「#PRを付けているか」から「依頼から転載・過去投稿まで、広告主が一貫して管理しているか」へと、問われる範囲が広がったことです。
施行から最初の措置命令が出るまでには約8か月かかりましたが、2026年に入ってからは数か月おきに処分が公表されています。2026年10月20日にも、消費者庁が通販事業者に対してステマ認定を含む措置命令を出したばかりです。
つまりステマ対策とは、表記ルールを決めることと同じくらい、「ルールが現場で守られ続ける仕組み」をつくることでもあるのです。
そもそもステマ規制とは?何が禁止されているのか
ステマ規制とは、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す表示を景品表示法上の不当表示として禁止するルールです。正式には、景品表示法第5条第3号に基づく指定告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」と呼ばれます。
ステマに当たるかどうかは、次の2つの要件で判断されます。
| 判断のポイント | ステマに当たるおそれがある | 原則としてステマに当たらない |
|---|---|---|
| 事業者が関与しているか | 事業者がインフルエンサー等に依頼・指示し、表示内容の決定に関与している(対価の提供や取引関係などから、実質的に関与と判断される場合も含む) | 第三者が自主的に感想を投稿しており、事業者の関与がない |
| 広告と分かるか | 「広告」「PR」等の記載がない、または分かりにくい | 広告であることが明瞭、または社会通念上明らか(テレビCM等) |
※実際の判断は、表示内容全体や個別の事情によって異なります。
出典:消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準
あわせて押さえておきたいのが、次の3点です。
- 規制対象は広告主(事業者):
依頼を受けたインフルエンサーは規制の対象外です。代理店に任せていても、責任は広告主に残ります。 - SNSだけでなく全媒体が対象:
SNS投稿やレビューサイトのほか、テレビ・新聞・雑誌も含まれます。 - 金銭のやり取りがなくても対象になり得る:
商品の無償提供や割引など、対価の形は問われません。
違反が認められると、消費者庁や都道府県から措置命令(行政処分)が出され、事業者名が公表されます。ステマ単独では課徴金の対象になりませんが、優良誤認・有利誤認と併せて認定されれば課徴金納付命令の対象となることがあります。
3年間でどんな手法が処分されたのか?主な措置命令事例
施行後、最初の措置命令が出たのは2024年6月でした。そこから2026年10月までに、消費者庁・東京都による処分や確約計画の認定が続いています。主な事例を、問題とされた手法ごとに整理しました。
| 手法の類型 | 公表時期 | 業種 | 処分庁 | 問題とされた内容 |
|---|---|---|---|---|
| 依頼投稿の自社サイト転載 | 2026年10月 | 通販事業者 | 消費者庁 | インフルエンサーの投稿画像をトリミングし、依頼の事実を示さず自社サイトに掲載(25件)。優良誤認も併せて認定 |
| 2026年6月 | 健康食品メーカー | 消費者庁 | 投稿自体は依頼を明示していたが、その部分を切り落として自社サイト・ECモールに転載 | |
| 2026年3月 | 化粧品通販 | 東京都 | 仲介事業者経由で依頼したInstagram投稿を自社サイトに抜粋掲載。優良誤認・有利誤認と併せ、3類型すべての違反を初認定 | |
| 2025年3月 | 健康食品通販 | 東京都 | 依頼したInstagram投稿を自社サイトに抜粋掲載。自治体初のステマ処分 | |
| 2024年8月 | フィットネスジム | 消費者庁 | 対価を提供して依頼した投稿を「SNSでも話題!」として自社サイトに抜粋 | |
| 口コミ・レビューへの特典付与 | 2025年8月 | エステサロン | 消費者庁 (確約計画認定) |
★5口コミを条件に割引、従業員による★5投稿 |
| 2025年3月 | 歯科医院 | 消費者庁 | 星5の口コミ投稿を条件にQUOカード提供または5,000円割引 | |
| 2024年6月 | 内科クリニック | 消費者庁 | Googleマップの★4〜5投稿を条件にワクチン接種費用を割引。ステマ規制初の措置命令 | |
| 投稿内容の指示 | 2026年8月 | アプリ業者 | 消費者庁 | インフルエンサーらに投稿文言を指示し、「PR」等の表記がないX投稿72件をさせた |
| 2025年3月 | 製薬会社 | 消費者庁 | モニターに商品を無償提供し、指示した方針で投稿させた画像を自社サイトに掲載 |
※公表資料・報道をもとに主な事例を整理したもので、全件を網羅したものではありません。
※各事例の出典は記事末尾の参考資料に掲載しています。
処分事例から見える3つの傾向
■傾向1:最も多いのは「依頼投稿の自社サイト転載」
フィットネスジム、健康食品、化粧品、家電と業種はさまざまですが、処分の多くはインフルエンサーやモニターに依頼した投稿を、依頼の事実を示さずに自社LPやECページへ転載したケースです。自社サイトは「広告であることが明らか」と考えがちですが、第三者の口コミのように見せた時点でステマと判断されます。
■傾向2:「投稿側では明示していた」のに処分された
2026年6月の健康食品メーカーの事例では、モデルのSNS投稿には依頼の事実が書かれていました。それでも、転載時にその部分を切り落としたことでステマと認定されています。インフルエンサー側の#PR表記だけでは、広告主のリスクはなくなりません。
■傾向3:業種・媒体・国境を越えて対象が広がった
当初は医療機関や健康食品が目立ちましたが、2026年にはアプリ事業者や家電の通販事業者にも広がりました。アプリ事業者の事例は、海外本社と日本法人の双方が処分対象となった点でも注目されます。東京都など自治体による処分も定着し、執行の担い手が増えています。
この3年で、ステマ規制を取り巻く環境はどう変わったか?
ステマ告示そのものに加えて、景品表示法全体の執行の仕組みもこの3年で強化されました。広告主から見た主な変化は次の3つです。
- 改正景品表示法の施行(2024年10月):
確約手続の導入、再違反事業者への課徴金の割増し、優良誤認・有利誤認に対する直接の刑事罰の新設などが盛り込まれました。確約手続は、違反の疑いがある事業者が自ら是正計画を提出し、認定されれば措置命令を受けずに済む制度です。ステマの疑いでも、2025年8月に確約計画が認定された事例があります。 - 自治体による執行の本格化:
東京都は2023年7月から、ネット広告の調査を専門的に支援する助言員チーム「東京デジタルCATS」を導入しています。2025年3月にはステマで自治体初の措置命令を出し、2026年3月には1週間で2件のステマ認定を行いました。 - 「代理店任せ」が通用しないことの明確化:
2026年3月の化粧品通販の事例で東京都は、広告内容の決定を代理店や運用会社に委ねていても、原則として景品表示法上の責任は広告主にあると明記しました。仲介事業者を経由したインフルエンサー起用でも、広告主が管理責任を負います。
「#PRを付けていても」処分される4つの落とし穴
処分事例を見ると、多くは悪意ある「やらせ」ではなく、運用の抜け漏れから起きています。マーケティングの現場で特に起きやすいのは、次の4つの穴です。
- 二次利用・転載の管理が抜けている:
インフルエンサー施策の契約や投稿チェックはしていても、その投稿画像をLPやECページ、広告バナーに転用する段階でPR表記が消えるケースです。制作担当とSNS担当が分かれている組織ほど起きやすい傾向があります。 - 表記が「ある」だけで「分かりやすく」ない:
消費者庁の運用基準は、広告であることを明瞭に示すことを求めています。大量のハッシュタグの末尾に#PRを埋もれさせる、動画の一瞬だけ表示する、といった表記は不十分と判断されるおそれがあります。当社が「マーケティングアジェンダ2026」で実施したクイズでも、この設問の正答率は54.8%にとどまりました。 - 口コミ・レビュー施策のインセンティブ設計:
「★5投稿で割引」「口コミ投稿でクーポン」といった施策は、医療機関やエステなどで繰り返し処分されています。店舗やスタッフ単位で独自に行われることも多く、本部が把握できていないことがリスクを大きくします。 - 過去の投稿・掲載物が残っている:
施行前に依頼した投稿や、担当者の異動で管理台帳から外れたコンテンツが、今もサイトやSNSに残っているケースです。施行前の投稿であっても、施行後に表示を続けていれば規制の対象になり得ます。
今すぐ確認したい、ステマ対策チェックリスト
3年間の処分事例を踏まえ、広告主として最低限確認しておきたい項目をまとめました。1つでも「できていない」項目があれば、運用の見直しをおすすめします。
■ 依頼・契約時
・インフルエンサー・モニター・アフィリエイターへの依頼をすべて台帳で管理している
・契約書・依頼書に、PR表記の方法(位置・文言・プラットフォームの広告ラベル)を明記している
・仲介事業者・代理店経由の案件も、広告主として投稿内容を確認できる体制がある
■ 投稿・掲載時
・PR表記が投稿の冒頭や目立つ位置にあり、ハッシュタグに埋もれていない
・動画では、一定時間・分かりやすい位置に広告である旨を表示している
・依頼投稿をLP・EC・バナーに転載する際、依頼の事実が分かる表示を残している
・「SNSで話題」「口コミ続々」などの見出しで、依頼投稿を第三者の声のように見せていない
■ 口コミ・レビュー施策
・高評価(★5など)を条件にした割引・特典を提供していない
・店舗・スタッフ単位で独自の口コミ依頼が行われていないか、本部で把握している
・従業員が身分を明かさずに自社商品を推奨・評価していない
■ 定期的な点検
・自社サイト・SNS・ECページに残る過去の依頼投稿を棚卸ししている
・担当者異動時に、管理台帳と表記ルールを引き継いでいる
・社内研修などで、最新の処分事例を共有している
公開前のチェックから過去投稿の点検まで。
ステマ対策を支える「広告審査代行サービス」
チェックリストで運用ルールを整えても、LP・ECページ・バナー・SNSと掲載先が増えるほど、すべての「第三者の声」を社内だけで点検し続けるのは大きな負担です。実際に処分事例の多くも、投稿そのものではなく、転載や二次利用の段階でPR表記が抜け落ちたケースでした。
イー・ガーディアンの「広告審査代行サービス」なら、こうしたステマリスクの確認を、専門スタッフの目で公開前にまとめて行えます。
- PR表記の不足を公開前にチェック:
バナー・LP・アフィリエイト広告から、SNS投稿や動画コンテンツまで、薬機法・景品表示法の専門知識を持つスタッフが確認します。「広告」「PR」など、広告として必要な表記が不足していないかを公開前にチェックします。 - 過去のコンテンツもまとめて点検:
アフィリエイトサイトやSNSなどに掲載済みのコンテンツも、独自の基準に沿ってチェックします。過去コンテンツの大量チェックにも対応しているため、施行前の依頼投稿や管理台帳から外れたコンテンツの洗い出しにも活用できます。 - 判断基準づくりから支援:
チェック項目や判断基準書がない場合でも、作成から対応します。自社に合った基準を整えることで、ステマと誤認させない運用体制づくりを支援します。
あわせて、薬機法・景品表示法の観点から広告表現そのもののチェックも可能です。処分事例では、ステマと同時に効果の誇大表示(優良誤認)が認定されたケースも少なくありません。ステマ対策として確認する広告やコンテンツに、効能効果の言い過ぎや根拠のない表示が含まれていないかも同時に確認できるため、表示のリスクをまとめて点検できます。
さらに、公開後の投稿や口コミの変化は、24時間365日体制の「SNSリスク即時検知サービス」で監視できます。従業員向けのSNSリテラシー教育セミナーと組み合わせれば、「公開前の審査」から「公開後の監視」「社内教育」まで、ステマ対策の運用をまとめて整えられます。
よくある質問
Q. インフルエンサーが自主的に投稿した場合もステマになりますか?
企業が依頼や指示をしておらず、投稿内容の決定に関与していなければ、原則としてステマには当たりません。ただし、過去の取引関係や今後の取引の見込みなどから、実質的に企業が関与していると判断されることもあります。
Q. 施行前に依頼した投稿はどうすればよいですか?
施行前の投稿であっても、施行後に表示を続けていれば規制の対象になり得ます。自社サイトやSNSに残っている過去の依頼投稿を棚卸しし、PR表記の追記や削除を検討しましょう。
Q. インフルエンサーや代理店も処分されますか?
ステマ規制の対象は広告主である事業者のみで、依頼を受けたインフルエンサーは対象外です。代理店に運用を任せていても、原則として責任は広告主にあります。
Q. まず何から始めればよいですか?
最初の一歩は、自社サイト・ECページ・SNSに掲載している「第三者の声」をすべて洗い出すことです。そのうえで、依頼の有無とPR表記の状態を一覧にすると、どこに穴があるかが見えてきます。
まとめ:ステマ対策は「表記ルール」から「運用体制」へ
ステマ規制から3年。処分事例が積み重なったことで、「#PRを付けていれば大丈夫」という考え方は通用しなくなりました。
この記事のポイント
- 依頼投稿をLP・ECページに転載するときこそ、PR表記の抜けに注意する
- 口コミ・レビュー施策では、高評価を条件にした特典を設けない
- 依頼・掲載・転載・過去投稿を台帳で一元管理し、定期的に棚卸しする
インフルエンサー施策や口コミ施策そのものが悪いわけではありません。ルールの範囲で正しく運用すれば、消費者の信頼につながる有効な手段です。社内だけでのチェックが難しい場合は、専門サービスの活用も選択肢の一つです。

