現代の政治活動において、SNSは有権者と直接つながり政策や理念を訴えるための不可欠なツールとなっており、選挙期間中だけでなく普段からの発信が支持基盤を固める上で重要視されています。
しかしその一方で、その強力な拡散力は「諸刃の剣」でもあります。一度の不適切な投稿や予期せぬトラブルが瞬く間に広がり、長年積み上げてきた党や個人の信頼を一瞬にして失墜させるリスクと常に隣り合わせです。さらに昨今では、生成AIを悪用したフェイクニュースも新たな脅威として浮上しており、従来のリスク管理だけでは太刀打ちできない状況が生まれています。
本記事では、「政党など組織としてのガバナンス」や「信頼の保護」といったリスクマネジメントの観点から、炎上や、AIによるフェイク情報などといったSNSリスクへの備えについて解説していきます。
1. 従来の脅威:政治活動や選挙での「炎上」はなぜ発生するのか
新たなリスクへの対策を講じる前に、まずは従来からある「炎上」のリスク要因を再確認しておきましょう。多くの炎上事例は、実は技術的な問題ではなく、コンプライアンス意識の欠如や、ヒューマンエラーから生じています。
■ 不適切な発信と感情のコントロール
最も多いのが、党関係者や政治家・候補者個人が一時的な感情に任せて投稿を行ってしまうケースです。
批判への過剰反応
有権者からの厳しいコメントや指摘に対し、売り言葉に買い言葉で攻撃的な返信をしてしまう。差別的な表現
特定の属性や思想を持つ人々を揶揄したり、排除したりするかのような表現を用いる。
これらは「個人の感想」として投稿されたものであっても、党の看板を背負っている以上、世間からは「組織全体の公式見解」として受け取られます。結果として、党全体のブランドイメージを大きく毀損することになります。
■ デジタルタトゥー
「デジタルタトゥー」とは、一度インターネット上に公開された情報は、完全に消去することが難しく、入れ墨(タトゥー)のように残り続けることを指す言葉です。
入党前や立候補前の過激な発言や、学生時代の悪ふざけなどが掘り起こされ、現在の主張との矛盾を厳しく追及されるケースが増えています。これは本人の資質を問われるだけでなく、擁立した党の事前調査の甘さを批判される要因にもなります。
■ アカウント管理のミス(誤爆)
「プライベート用のアカウントで投稿するつもりが、公式アカウントから投稿してしまった」という、いわゆる「誤爆」も発生しています。単なる個人的な趣味の投稿であれば笑い話で済むこともありますが、同僚への愚痴や、未公開の内部情報、あるいは差別的な発言、暴言などが流出した場合、党のガバナンス能力そのものが疑われる重大なインシデントに発展します。
2. 政治活動の新たな脅威:AIによるフェイク情報の拡散
近年、生成AIの普及に伴い新たに問題視されているのが「フェイク情報の拡散」です。これまでのリスクが「内部のミス」であったのに対し、これは「外部からの悪意ある攻撃」として降りかかります。
■ ディープフェイク
AI技術の進化により、党首や所属議員といった政治家・候補者が「実際には言っていないこと」を、さも言っているかのように話す動画や音声が容易に作成できるようになりました。
AI音声
わずか数秒の音声データから本人の声を再現し、「賄賂を受け取った」などの虚偽の告白を喋らせる。生成画像
デモ活動や会合の様子を生成AIで捏造し、実際には起きていないトラブルを写真や動画として拡散する。
これらは非常に精巧であり、スマートフォンの画面で流し見する程度では、一般の有権者が真偽を見抜くことは極めて困難です。
■ アルゴリズムによる拡散の自動化
SNSのアルゴリズムは「感情を揺さぶるコンテンツ」を優先的に表示する傾向があります。AIボット(自動プログラム)を使用し、虚偽情報を短時間で大量に拡散させることで、意図的にトレンド入りを狙う手法も存在します。
事実無根の噂であっても、トレンド入りすることで「多くの人が話題にしている=火のない所に煙は立たない=真実かもしれない」という誤認を生み、既成事実化されてしまう恐れがあります。
■ 訂正の難しさと「嘘の影響」
「嘘は千里を走る」と言われる通り、フェイク情報の拡散スピードに対し、訂正記事・コメントの拡散力は弱いのが現実です。また、AIフェイクが蔓延することで、逆に「本物の不祥事の証拠が出ても、『これはAIで作られた偽物だ』と言い逃れができるようになる」という現象も懸念されており、情報の信頼性そのものが揺らいでいます。
3.政治活動におけるリスクを未然に防ぐためには
リスクをゼロにすることは難しいですが、発生確率を下げ、万が一の際の被害を最小限に留めるための「予防」は可能です。
■ ガイドラインの策定
「何を投稿してはいけないか(禁止事項)」だけでなく、「党としてどのようなトーン(口調、姿勢)で発信するか」という指針を策定しましょう。
NGワードリスト
炎上リスクの高いキーワードや、差別的と解釈されかねない表現をリスト化し共有する。法的チェック
肖像権や著作権の侵害にならない画像利用のルールを明確にする。
■ チェック体制の確立
SNS投稿を個人の判断のみに任せるのは、ガバナンスの観点から非常に危険です。以下のようなクロスチェック体制を構築しましょう。
ダブルチェック
原稿作成者以外のスタッフが必ず内容を確認する。クールダウンタイム
深夜や早朝、または選挙直後など感情が高ぶっている時は即時投稿を禁止し、下書き保存して翌朝再確認する。権限の分離
投稿ボタンを押せる権限を持つスタッフを限定し、アクセスログを管理する。こうしたルールを設けることで、イージーミスや感情的な暴走を未然に防ぐことができます。
■ ネットリテラシー教育
SNSのトレンドやリスクの傾向は日々変化しているため、定期的な研修を行い、最新の炎上事例やAIフェイクの手口について知識をアップデートし続けることが重要です。「知りませんでした」では済まされない時代であることを、政党などの組織全体で共有する必要があります。
■ モニタリング体制の導入
トラブルを未然に防ぐ、あるいは火種が小さいうちに発見するためには、定常的な監視体制が不可欠です。政党名や政治家・候補者個人名、政策キーワードなど様々な観点から情報収集を行い、不審な噂やフェイク情報の予兆を早期に検知する体制を整えましょう。
4. 有事の際、政党が行うべき対応とは
炎上やフェイク情報の拡散といったトラブルが確認された際、最も重要なのは「初動のスピード」と「正確さ」です。いざという時にパニックにならないよう、対応ステップを確立・周知しておくことが大切です。
緊急連絡と内部統制(二次被害の防止)
トラブル発生時、まずは夜間や休日であっても責任者に即座につながる連絡ルート(ホットライン)を稼働させます。同時に、関係者による個人的な発言や憶測による投稿を禁止(かん口令)します。個々のスタッフが勝手な判断で反論したり言い訳をしたりすることで、火に油を注ぐケースが多発しているためです。事実確認と証拠保全
問題となっている投稿や動画を直ちに確認し、URLやスクリーンショットを保存します。投稿を安易に削除すると「証拠隠滅」と捉えられる可能性があるため、削除前に必ず記録を残すことが鉄則です。迅速な公式否定
特にAIフェイク動画の場合、曖昧な態度は命取りになります。「当該動画はAIによって生成されたフェイクであり、事実無根である」と、党の公式アカウントから毅然と、かつ迅速に否定する必要があります。個人のアカウントで感情的に反論するのではなく、公式見解として発表することが重要です。プラットフォームへの通報
X、Meta、YouTubeなどの運営に対し、規約違反(なりすまし、合成・操作されたメディアに関するポリシー違反)として削除申請や通報を行うフローを事前に確認しておきましょう。
5. まとめ:本来の選挙・政治活動に集中するために
ここまでSNSリスクへの対策を解説してきましたが、これらを全て党内部のリソースだけで完結させることは、現実的に困難です。
特に、選挙期間中や重要な局面において、悪質なデマや誹謗中傷への対応に追われ、本来注力すべき街頭演説や政策立案に手が回らなくなることは、もっとも避けるべき事態であり、これこそが一種の「政治活動妨害」とも言えます。
「何か起きてから」泥沼の対応に追われるのではなく、専門家の目による「早期発見・早期解決」を実現することで、ボヤのうちに問題を鎮火させ、党の信頼と本来の政治活動に充てる時間を守り抜くことが重要です。
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